【レポート】レクチャー&WS「障害のある人との身体表現から創造的な福祉の現場をつくるヒントを学ぶ」

今回は「障害のある人との身体表現から創造的な福祉の現場をつくるヒントを学ぶ」をテーマに、齊藤頼陽さん(俳優、鳥の劇場副芸術監督)、井谷優太さん(サウンドクリエーター、俳優)、井谷憲人さん(マネージャー、俳優)をお招きし、鳥の劇場やじゆう劇場の取り組みについてお聞きしたり、後半にはワークショップを行いました。

部屋から見える情景。実は外では雨風が吹き荒れている

この日の昼はJRが止まってしまったり強い雨風で飛ばされそうな天気だったりと会場にたどり着くまでがなかなか大変な日だったのですが、無事にたどり着いてくださった参加者のみなさんと、外とは違って緑も望める開放感のある室内で共に熱のこもった体験ができました。

齊藤さんが副芸術監督をつとめる「鳥の劇場」は、鳥取市鹿野町で廃校になった幼稚園・小学校の体育館を改装した拠点で活動している劇団です。

活動の当初は劇場である体育館を子どもたちが部活動で利用していたので、日中に稽古をし部活動の時間は休憩、夜に再び稽古というスケジュールで活動していました。

齊藤頼陽さん

その中で、自分たちの演劇だけでなく、小中学校での授業の実施、学生たちや高齢者と一緒に演劇を作る、国や地域を超えた交流をするなど、演劇を通して開かれた場をつくる活動をしていたことが鳥取県に評価され、県が建物の改装費を支援してくれることになりました。おかげで壁面の大きな窓がふさぐことができ、今まで外光が入ってしまってできなかった暗転の演出も可能になりました。また、壁面以外はDIYで整えるなど経費を抑えながら現在の会場ができました。

改装により演劇ができる場所となった体育館

2006年から活動を開始した鳥の劇場ですが、2013年には障害のある人とない人が共に芝居をする「じゆう劇場」を立ち上げました。
井谷優太さんと井谷憲人さんも参加するじゆう劇場では、毎年参加者の募集をし直すことで気軽に参加の出入りできるようにしています。

練習では、参加者が円陣になって「目に見えない何か」をキャッチボールするなど、体や言葉を使うコミュニケーションを多く取り入れています。はじめは慣れない練習に戸惑う参加者も次第にほぐれ、熱量の高いやり取りが展開していきます。

じゆう劇場では全員が出演する長編作品と、5人くらいによる短編をそれぞれ年に一回ずつ発表しています。短編を作ることのメリットとして気軽に色んなところに出演でき、活動をより多くの人に知ってもらうことにつながっています。

海外にも障害のある人とない人が共に活動する劇団がたくさんあり、交流を重ねる中で「障害のあるなし、国の違い」の垣根のなさも感じています。2023年に韓国の演出家からの依頼で優太さんが音楽をすべて担当。猿・花・風・蜂が出会うストーリーを劇中音楽で表現し韓国の人と芝居を一緒につくることもできました。

お話が面白くてあっという間に時間が経つちます

現在はじゆう劇場を鳥の劇場が導いていますが、鳥の劇場としてはゆくゆくじゆう劇場だけで自立してやっていけたらと考えています。じゆう劇場のサイト内の「稽古場日誌」は自分たちの活動を知ってもらいたいと参加者が自主的に始めたもので、自立への一歩もじんわり踏み出されています。

齊藤さんご自身と劇場とのかかわり

齊藤さんは、以前は東京でシステムエンジニアの仕事で収入を得ながら演劇をしていました。芝居で稼いでいないので「俳優」と名乗ることに引け目を感じたり、チケットノルマがあり観客もだいたい決まった人でクローズドな世界だと悩み多き日々。いつまで演劇を続けられるか不安に思っていたところ、今の鳥の劇場のリーダー中島諒人さんの誘いをうけて鳥取へ行く決断をします。

嬉しかったのは、鳥取に移住してとにかく頑張って演劇活動をしていたら近くに住む人たちが観に来てくれ、自分のことを「演劇をしている人」として認知してくれたこと。「これなら演劇ができる」と自信もつきました。今の幅広い活動の展開は、この地元のお客さんたちに何ができるんだろうと考えた結果と、このままでは演劇が衰退してしまうという危機感から生まれてきたものです。

じゆう劇場を始めて少しした頃、齊藤さんの中に「障害のある人と”普通のもの”を目指したいのか?」という問いがわきました。そこで試しに参加者に「今日は好きなことをしてみよう」と投げかけてみたところ、音楽をかけながらみんなで歌を歌うことになり、参加者がいつも以上に活き活き歌いだしました。さらに「ロミオとジュリエットになりきって歌ってから最後に一言言ってみよう」と提案してみるとさらに盛り上がり、「ロミジュリ学園」という物語も創作されるなど表現の広がりもうまれ、現在では「得意なこと」プラス「できることを広げる」ような練習をするようになりました。

 

優太さんにインタビュー

 

写真中央が井谷憲人さん、その右が井谷優太さん

以下は齊藤さん、憲人さんの3人でのやりとり。

齊藤:じゆう劇場に関わろうと思ったきっかけは?

優太:当時通っていた職業訓練校にじゆう劇場の参加申込用紙があって、元々養護学校でも演劇をしていたことと、音楽もやりたいと思っていたので応募しました。

齊藤:最初の方、「台本の決められたことをやって」って言われてた時はどう感じてた?

優太:僕は出番が少なかったしこんなもんかなと思ってた。

齊藤:優太の障害について、僕ははじめ車椅子から降りて歩けないと思っていたけど、動けたのに驚いた。今では劇中のケンカのシーンで膝立ちの優太の車椅子を蹴ったりブンブン振り回すこともある。普通はしないけど、本気ケンカ(の芝居)となったら。障害も個性なんだと思えるようになれたのもある。

優太:僕はじゆう劇場の活動を始めて、色んな人とつながれるようになった。演技をしてる僕をみて取材連絡がきたり、じゆう劇場での活動から広がりがでた。最近発話しやすくなったし相手からも聞きやすくなったと言われるけど、それは稽古によって声を出せるようになったのもあるし、「自信」がついたのも大きいです。

憲人:僕も優太のサポートをしながら稽古を見ていると大変なことがある一方「自信」になってきているのを感じました。そうしている間に中島諒人(鳥の劇場芸術監督)さんに引き込まれ自分も演じるようになりました。稽古をみていて「これなら自分もできる」と感じて始めたけど、実際にやってみるとセリフもおぼえられないし簡単なことじゃないなとしみじみ感じました。

優太:最近では気の合うメンバーと、じゆう劇場とは別の形で一緒に音楽をしたりするようになって、ライブもするようになりました。

齊藤:活発に活動をする人がいる一方で、じゆう劇場には途中から来なくなった人がいてずっとひっかかっています。大変な環境下で生きて社会との接点の少ない人も社会との関わりを持てるようにできたらいいと思い、それができるまでこの活動を続けたいです。

 

休憩をはさみ… 体を使ったワーク

 

名前を体で表現???

はじめに、”自分の名前を口で言いながらそれを体でも表現して、みんなでマネする。そしてそのマネについて本人が感想を言う”というなかなか複雑なことにみんなで挑戦しました。

始めは照れながらアクションする参加者も、齊藤さんの「最後伸び上がる?」「トルネードして引き上げる感じで!」「ちょっと寝てみよーかなー」などの声掛けで次第にオーバーアクションに。優太さんも車椅子から降りて床にゴローンとしたり膝立ちでジャンプしたり。何度もみんなで爆笑しながら、体も気持ちもほぐれたワークとなりました。

みんなでゴローン

次に拍手回し。
円陣になって隣の人に拍手を送っていき、逆回転もします。次第に乱れ打ちのようになったりフェイントをかけたり。さらには拍手に重さや質感、速さも付いて、砕けたり丸まったり伸びたり、、、
しまいには齊藤さんから「みんな拍手がどんどん大喜利みたいになってるけど普通にまわしていいんだよ。。。」とつっこまれるなど、こちらもかなりエキサイトしました。

 

2チームに分かれての芝居づくり

まずは各チームでのウォームアップ。あるお題(場所やものなど)について、そのイメージを静止画像のように体現し、相手のチームにそれが何かを当ててもらいます。

何の様子をあらわしてるんだろう。

1つ目のチームでは、遠くを指差すしぐさをする人、しゃがみこんで手を動かす人、細かく前後に行ったり来たりを繰り返す人、などが登場し、、、
正解は「海水浴場」。海に来て「あー」って言ってる人や砂の城をつくる人、波打ち際ではしゃぐ人など、、、。

2チーム目は「コンビニ」がお題。コンビニから連想されるものを銘々に体で表しました。

チームワークが整ってきたところで各チームで芝居づくりに挑戦します。

出されたテーマ「楽しかったこと、腹たったこと」から参加者が最近あったエピソードを出し合い、チームのストーリーを一つ決めて芝居に仕立てます。
参加者それぞれの体験をチーム内で披露しあい、早々にテーマや役割分担、演技内容が決まっていきます。2チームとも、本当に今日初対面とは思えないチームワークです。

各チーム、自分たちのエピソードから芝居をつくります

気持ちよく陽を受けていたのに土砂降りがやって来た!

そうしてできた芝居。1チーム目のタイトルは「変な天気!」

晴れ役がエネルギッシュに車椅子で疾走して陽気を振りまく中、気持ちよさそうに洗濯物を干す人がいます。シャツ役が気持ちよさそうにはためいているところ、突如、雨役がやってきて容赦なく大雨を降らせます。あわててシャツが取り込まれなんとか雨から避難。すると、直後に晴れが再び登場し車椅子を疾走させ拳を振り上げます。思いっきりピーカンです。「また晴れとんかい!!」〈完〉
「晴れ」や「雨」「シャツ」までも人間で演じるという楽しい一幕でした。
中でも、芝居は初めてという雨役のどしゃ降り表現がとてもダイナミックかつチャーミングで大絶賛でした。

2チーム目は「保温は短めに」

夜帰宅したら夫がご飯を炊いてくれていて「ありがとー。」と美味しく食べ、翌朝。スズメの鳴き声とともに起きて炊飯器をみると一晩中保温されっぱなしで「ご飯カピカピやんか!」というお芝居。
ご飯粒役たちの炊きたてふっくらした表情と、翌朝カピカピになったご飯粒たちの呪わしいような表情がユーモラスかつ秀逸で、観ている側も主人公とともに幸福感やがっかりの感情の起伏を味わい、こちらも大絶賛のお芝居でした。

ふっくらツヤツヤのご飯粒たち

翌朝はカピカピ!

 

優太さんの音楽制作

 

この小さな鍵盤でオーケストレーションできる

その後優太さんの作曲方法を見せていただきました。作曲にはパソコンソフトを自在に使い、決して音数の多くはない鍵盤でもオーケストラのような演奏ができます。とにかく優太さんの作曲はスピーディーで、企業からの制作依頼には秒単位の細かな指示もあるそうですが短い納期にも余裕をもって応えています。

 

WS参加者の感想

最後に参加者の感想をご紹介します。

・普段、一緒に芝居をしている障害のある人が舞台上にキラキラと喜びに満ちて在ることに感銘をうけている。今日は自分がこんなにナチュラルにここに居れると思っておらず参加できてよかった。

・(憲人さんの)幼馴というだけの理由で来たけど、こんなこと(芝居)するなんて思ってなかった。長く生きて色んなことが染み付いた自分がこんなに自由にできると思っていなかった。自分が楽しいって大事!

・定年を迎えて気持ちがフリーになったものの自分の感性を表に出すことはなかなかない。今日は小学生くらいの時みたいに発散できた。これから生で色んな芝居や寄席を観たい。

・学生の時劇場の情報保障に関わっていた。演劇はずっとやっていて場作りもしたいと思っているけど地域の人はなかなか来なかった。今日はみんなに出会いに来た。

 


 

この日は演劇に馴染みのある人もない人も、初対面同士がこんなにも瞬時に近づけた事に参加者自身もおどろいた1日となりました。

また、演劇のメソッドと、福祉の現場で日々行われている言葉や体を通した関係性作りには互いに響き合うところがあり、それは社会全般に通じるものではということも体感できました。

日時:2024年3月20日(水・祝)13:30~16:30
会場:高槻城公園芸術文化劇場南館1階 中スタジオ4
ゲスト:齊藤頼陽(俳優、鳥の劇場副芸術監督)、井谷優太(サウンドクリエーター、俳優)、井谷憲人(マネージャー、俳優)
【内容】
・レクチャー「人との関わりから『普通』に疑いを投げかける」
・ワークショップ
主催:一般財団法人たんぽぽの家 *令和 5 年度障害者芸術文化活動普及支援事業(厚生労働省)

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