[レポート] オンライン勉強会「どうすれば多様な人が鑑賞できるのか?」

勉強会のきっかけ

7月のある日、障害とアートの相談室に、京都国際舞台芸術祭「KYOTO EXPERIMENT」さんより相談が入りました。

「海外の障がいのある俳優たちが参加する劇団『バック・トゥ・バック・シアター』を招聘することになった。それに際して、劇場で(障害の有無に関わらず)誰もが鑑賞できるような、多様な鑑賞のあり方について知りたい」

わたしたち相談室もまだノウハウが少ないため、多様な鑑賞に関する勉強会を国内各地で実施している、ビッグ・アイの鈴木京子さんにレクチャーをお願いして、劇場のアクセシビリティについての勉強会をする運びとなりました。

(レポート・イラスト:プロジェクトスタッフ 玄番佐恵子)

アクセシビリティとは?

勉強会当日は、KYOTO EXPERIMENTさんと山口情報芸術センターYCAMの舞台運営に関わる方々、障害とアートの相談室のスタッフがともにオンラインで学びました。(YCAMでも今秋『バック・トゥ・バック・シアター』が公演予定です!)

そもそも、「アクセシビリティ」って何でしょう?

アクセシビリティとは…シンプルに言うと「手の届きやすさ」。どうすれば、多様な人が劇場鑑賞しやすくなるかのヒントをたくさんいただきました。

「知ること」が大切

まず多様な人が参加する事業づくりを始める前に考えること。来場する人にはどんな人がいる?子供?高齢者?障害者?「障害者」とひと口に言っても、身体障害、知的障害、視覚障害、聴覚障害…さらには障がいが重複している人もいます。どんな人を対象にするのか。対象によって必要なサポートは変わります。

まずは対象を「よく知ること」

鑑賞のサポートが目的なのでなく、あくまで人が中心に考えることが大切です、という鈴木さんの言葉にハッとしました。そして、(今の時点では関わらなくとも)事業に関わる全ての人に啓発・普及して「知ってもらうこと」も重要だと説かれました。

 

それぞれの「ポイント」

実際に多様な人が参加する事業づくりの際の、具体的なポイントをいくつか教えていただきました。

●「予算のポイント」

障壁を取り除くための費用は、企画段階で予算化する。企画決定後は予算がおりないことも…

●「企画立案のポイント」

「誰もが」の「誰も」って、誰のこと?対象となる人を明確にする。

●「スケジュールのポイント」

公演チケットの販売期間は余裕を持たせる。公演情報をキャッチするまでには時間がかかり、サポートするヘルパーを探すにも時間がかかる。また、公演はなるべく時間内に終了させる。付き添いのヘルパーの時間には制約も多いため。

●「情報発信のポイント」

会場でどういったサポートが受けられるのかの情報があるだけで、安心して参加できる人がいる。例えば「この公演には字幕と音声ガイドがあります」や、「筆談の対応ができます」など、一言添えるだけでもサポートになりえます。

「チケットを買うところからサポートは始まっています」と鈴木さんのお話にハッとなりました。

「みんな」の落とし穴

「誰もが」「みんなが」「バリアフリー」。簡単なようで、とても難しい言葉です。「誰もが」は「誰か」を想定しないと、サポートが的外れになってしまうことだってあります。

例えば、字幕をつけたからと言って、必要な人に届いていなければ「バリアフリー」ではないかも。「誰もが」を優先しすぎて、「誰か」の障壁になっていたり…

前述しましたが、やはり「誰を」対象にするのかを明確にすることが大切だと説かれました。

具体的な取り組み例

レクチャーの後は、ビッグ・アイで取り組まれた「知的発達障がい児(者)にむけての劇場体験プログラム 劇場って楽しい‼」を具体例として挙げていただきました。

ブザーや暗転など劇場ならではの仕掛けを知って「劇場を体験する」という魅力的な取り組み。今後は福岡、大阪でも実施予定です。

引用元:https://www.big-i.jp/projects/post/000776.php#jump1

勉強会を終えて、質疑応答

鈴木さんのレクチャーの後は、参加者からのこのような感想や質問が出てきました。

●できる限り多様な人が鑑賞できるようにはしたいが、思った以上に予算と時間がかかることを痛感している。企画段階で予算と時間を考えることは重要だと思った。

●安易に「みんな」「全ての人」という言葉を多用していたことを反省した。

(鈴木さん)言葉自体は悪いことではない。「みんな」「全ての人」が叶えば理想的だが、その中で「私はここでの『みんな』に入っていない」と思う人がいると辛いので、ビッグ・アイではあえてタイトルにはその言葉は使わないようにしている。

●やはり全ての人に届く公演というのは難しい。「今回は、こういう(障がいのある)人を対象にして行おう」というのは、どういうプロセスで決められるのか。

(鈴木さん)ビッグ・アイでは知的・発達障がいの方対象の「劇場体験プログラム」以外は誰でも見られるようにしているが、このプログラムは公演前に劇場についての説明や、感覚過敏の人に対する音響や照明の調整をしている。「サポートのないほう」を望む人にもいて、それも対応できると望ましい。また、公演が複数ある場合は、そのうちの1公演を障がいのある人向けにしている事例もある。

●公演に字幕をつけたかったが「著作権的にNG」となったことがあった。耳の聞こえない人が事前に台本を読めるようにしたかったが、こちらも同様の理由で叶わないことがある。「福祉の為」と「著作権」がバッティングしてしまったが、進展はあるだろうか。

(鈴木さん)こうした対応がNGのところもあれば、OKのものもある。やはりこれはまだ難しい課題だと思う。

さいごに

「みんなが」参加しやすい劇場鑑賞って難しい。あっちを立てればこっちが立たないこともあるけれども、鈴木さんの言葉の通り「誰に向けて」いるのかを忘れないことが重要だと思いました。

きっと自分の大切な誰かがサポートが必要な時は、どうやったら楽しめるか考えられるはず。そんな当たり前の事に気づかせてもらった勉強会でした。


 

冒頭にも記述のあった、障がいのある俳優たちが参加する劇団『バック・トゥ・バック・シアター』が今秋オーストラリアから来日・公演予定です!

▼KYOTO EXPERIMENT(京都)でのプログラム>詳細はこちら
▼山口情報芸術センターYCAM(山口)でのプログラム>詳細はこちら
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