レポート:トークシリーズ「障害のある人のアートと評価~第1回芸大のものさし」

10月21日、トークシリーズ「障害のある人のアートと評価」第1回が開催されましたのでご報告いたします。

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10月21日(金)グッドジョブセンター香芝にて、「障害のある人のアートと評価―あなたの『ものさし』聞かせてください!」の初回をおこないました。講師はご本人もアーティストとして活躍している、京都市立芸術大学教授の高橋悟先生。2月までの長期戦、スタートダッシュのごとく、たくさんのキーワードがちりばめられた回になりました。以下にその内容をまとめます。

芸大と評価

高橋さんは最初に、芸術大学での実際を交えながら「そもそも評価をするということにはどういうことか」と疑問を提示されました。「評価はある特定の集合、時間の中で、ある目的に沿って順位付ける行為で、アートとは馴染みにくいんじゃないか」というお考えのもと、高橋さんは大学の授業では基本的に評価をしないそうですが、その代わりに批評というものを大事にしているそうです。高橋さんの考えられる批評とは、作者の思いを代弁することではなく、作品に対して「もっとこういう見方もできる」という新しい読み方を提示すること。そういった評価や批評の現場となる芸大ですが、高橋さんは芸大ひいては芸術に二つの役割を考えられています。一つは縁切り寺的に、俗的世界から切り離されたところで芸やその人の感性を極めていく「Art」。もうひとつは縁側的に社会に開いていて、食べる、掃除する、といった生きることに直結している生の技法「Arts」。どちらが優れているというものではないのですが、作家になるような一握りの学生以外に何を教えるのかを考えたときに、Arts的な観点が必要になるということです。高橋さんにとって卒業とは自分で自分に問題が出せること。問題がいろいろあるなかで孤立するんじゃなくて、社会の中に自分の居場所を作ることができるように、いろんな技術を身に着けてほしい。そんな高橋さんの願いが評価にまつわる姿勢にも表れていると感じました。

作品とは

次は「作品を評価する」というときに、じゃあ作品とはなんなのかというお話。高橋さんは、歴史の転換点的な事例をたくさん交えながら近代的な「作品」観を批判された上で、その先の新しい作品のあり方について語っていました。近代的な作品観とは、たとえば西洋美術の「進化論」の中の位置付けで作品の価値が決まることであったり、作者の内面の表出にいかに固有性があるかという考え方であったり、健常中心の考え方であったり、国や民族という分け方で世界を考える世界アート的な考え方であったりするのですが、現状はそうした作品観にはそぐわなくなってきています。にもかかわらず、障害のある人のアートで作者の固有性が強調されるなど、近代的な作品観はしぶとく生き残っている。そうではなくて、作品は参照項indexなのだと高橋さんはおっしゃいます。作品自体は物だけれど、それが見ている人の何かに働きかけ、何かの現象が起こる。過去に作られた作品が現在に働きかけ、未来をつくっていく、そういう装置として作品を見てはどうか、と高橋さんは提案されます。

脱健常の芸術

高橋さんは、諸感覚の統合が難しい発達障害の人が感覚統合のトレーニングをする「感覚統合ルーム」をヒントに、逆に統合が難しい人に近づく「感覚統合しないルーム」というものを作られたそうです。人には一人一人に感覚の統合の仕方、感覚の文法、感覚の理論があり、それに近づいていくための術を探していくことが重要なのだと高橋さんは語ります。トークの前にもたんぽぽの家で、高橋さんとヒップホップMCのShingo02さんに、障害の有無、仕事や年代もバラバラなその場に居合わせた人たちで一つの音楽を作るというワークショップをしていただきました。そういうふうにいろいろな人の感覚が混じり合うことで、文化や民族を超えたところの「人間」というものが浮かび上がってくるのではないか。そうした感覚の文法や、感覚の混じり合いに着目した時に、障害の有無という狭い文脈ではなく、「脱健常の芸術」として色々な作品と繋がっていけるのではないか、ということでした。

まとめ

文脈の違う作品を同じフラットに展示する工夫、記録とアートの関係、展示のむずかしさなど、ここには書ききれないくらいの盛りだくさんなお話でした。また質疑応答では、東北の震災のような事態にあって記録のアートにどのような可能性があるのかということや、福祉施設で芸術活動をすることの難しさなどが、半ば悩み相談会のように語り合われました。
いろいろなお話がありましたが、一貫して「評価する」という行為の前提を問い直してくださった会でした。障害のある人のアートに限らずアートの文脈自体が転換点にあり、その中で、今障害のある人のアートがどういう状況に置かれているのか、もう一度考えてみる必要があるのではないかと考えさせられました。

(レポート:菊竹智之)

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講師はアーティストで京都市立芸術大学教授の高橋悟さん

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福祉関係者、デザイナーなど様々な方にご参加いただきました

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