【レポート】⾒える⼈、⾒えない⼈、⾒えにくい⼈の対話型鑑賞ワークショップ in 芦屋市⽴美術博物館

⾒える⼈、⾒えない⼈、⾒えにくい⼈の対話型鑑賞ワークショップ in 芦屋市⽴美術博物館

日時:2024年11⽉12⽇(⽕)13:30〜16:00
場所:芦屋市⽴美術博物館 1 階 講義室集合
(〒659-0052 兵庫県芦屋市伊勢町12-25)
参加費:無料
ファシリテーター:光島貴之
イントロレクチャー:芦屋市⽴美術博物館学芸員 ⼤槻晃実

主催:障害とアートの相談室(⼀般財団法⼈たんぽぽの家)
協力:芦屋市立美術博物館、今井祝雄、アトリエみつしま、ひょうご障害者芸術文化活動支援センター

厚生労働省 令和 6 年度障害者芸術⽂化活動普及⽀援事業


今回は芦屋市立美術博物館での特別展「今井祝雄―長い未来をひきつれて」にて、多様な鑑賞のあり方を考えるワークショップを実施しました。
冒頭、本展を企画した芦屋市立美術博物館学芸員 大槻晃実さんに展示の趣旨とポイントをお聞きしました。次にファシリテーターの光島貴之さんより、鑑賞ワークショップのポイントをお話しいただきました。

ワークショップの始めに

ワークショップ時には事前に主催者が割り振った3つのグループに分かれて鑑賞するため、3テーブルにわかれて着席。
参加者は11名。内2名は視覚障害のある方でした。
それぞれに美術館関係者やアーティスト、障害者福祉施設のスタッフ、大学の教員、障害者芸術文化活動支援センターなど、様々な分野で活動される方々が参加されました。

ファシリテーターであるアーティスト光島貴之さんの事前レクチャーでは、今回の参加者の半数程が学芸員や美術関係者だったことをふまえ、見えない人と作品を鑑賞する時、見える人は「知識の説明」ではなく、「おどろきや見たまま」を言葉にしてほしいとリクエストがありました。

また、見えない人の手引きも全員が体験し、それも含めた鑑賞体験にしてほしいとのことでした。

最近では映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』など白鳥建二さんの活動により、見えない人の美術鑑賞についての認知度が上がっていることもあり、新しい作品の楽しみ方というものを探索する土壌が社会の中に生まれてきています。

見える人もいろんな人の「言葉」を聞きながら新たな鑑賞体験をしてほしい。と光島さんよりお話をしていただいた後、グループごとに自己紹介をしあった後にわかれて90分の鑑賞タイムとなりました。

各グループは見えない人1名と見える人5名程度(スタッフ含む)で構成されています。

グループ内で自己紹介

会場では、特別展「今井祝雄―長い未来をひきつれて」を開催しており、写真など平面作品の他、大小様々な立体作品、映像、音作品といった多様な展示をそれぞれに鑑賞しました。

以下は3グループの内の一つに参加した時の様子を主にレポートしています。

※写真は全てのグループについて撮影したものを掲載します。
※写真内の美術作品は全て「今井祝雄―長い未来をひきつれて」展の出品作品です。


鑑賞スタート

見える人は、見えている状態を言葉で説明し伝えていきます。

事前の光島さんのリクエストもあり、先にキャプションを見て正確な作品解説をしようとするのではなく、見たままやそこからうけた印象などを言葉にしていきました。

そのあとでキャプションを読んで「なるほどー」とみんなで納得し合うスタイル(鑑賞中”種明かし”と言っていました)で鑑賞しましたが、どう伝えたらいいかなど、伝えること自体が難しいことも多く意外とチームワークが必要で、参加者同志の連帯も生まれていました。
素の状態で作品と向かい合うことで、鑑賞の深度や広がりがより深まる実感も得られました。

写真作品を前に個人個人ではなく、グループ全員で鑑賞する

また、見えない人は見える人の言葉をきいて「それはどんな?」「だとしたらそれはどんな感じ?」「なんでそうなるの?」と問いかけ、見える人はそれに答えることで、より一層グループ全員の考察や鑑賞が深まっていきました。

一連の写真にどんな規則性があるかなどみんなで探している

また、音を用いた作品(《八分の六拍子-part 1》)の前では、例えば6/8拍子と心臓音について議論したり、アナログとデジタルなど、作品作りの手法や記録媒体の歴史について意見や知識を交わすなど、多様な形態の作品鑑賞においても、言語化することを通して鑑賞体験が深まることを感じました。

《八分の六拍子-part 1》。1976年に実施されたイヴェント《八分の六拍子》から生まれた作品。真ん中にはスピーカーがあり、心臓音のビートが段々とメトロノームの刻みに移り変わっていく音声が流れている

作品を言葉で、見えない人に伝える

バラバラになったレコードがターンテーブルに。「なぜ?」をみんなで探る

オーディオテープを球状にした作品。日常にはないものを言葉で伝え合う

ビデオテープをほどいた大きな作品を前に

各グループでは90分の間に鑑賞した作品はおよそ4作品前後と、どのグループも一作品に時間をかけて鑑賞したようでした。

グループごとに鑑賞した後は、各チームで振り返りをしました。
感想の一部をご紹介します。

・見えない人と一緒に鑑賞することで、自分だけでは見逃していただろうことが見えた。
・いつもは友人と行ったとしても孤独に観るから、そういえば仲間で言語化しながら一作品を長い時間かけて観ることをしていなかったなと思った。
・作品のサイズ一つをとっても言葉にするのがむずかしかった。そのむずかしさをみんなであーだこーだ言いながら観れたのが面白かった。
・見えないと「言語化」に走り過ぎてしまう側面もある。
・一作品を30分かけて観るということもあるんだな。
・より多くの人と作品について言葉を交わすことで、作品が多面的に見える。
・今日のグループメンバーはよかったけど、相手と波長が合わなくて会話が出てこなかったり、あまり楽しめない時もある。
・言葉で説明することが得意な人もいれば苦手な人もいる。言葉以外の音や、手で触れる、単語だけで伝えるなど会話以外で対話するのも良いかも。
・作品の表面を言葉でなぞることで、その人や相手の内面が見えてきた。

以上

ワークショップ後には美術館・文化施設関係者による、芸術文化施設への障がいのある人のアクセスについての意見交換会を行いました。
その内容については別レポートを作成します。

2024.11.26記

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